大都市札幌で養豚場を営むことには、難しさがあります。
豊滝の地で「古川ポーク」のブランド、そして札幌で1軒となった養豚場を守るため、奮闘する3代目の姿がありました。
繋がれた
親子のバトン
「4月から息子が継いでくれる予定なんです。今まで本格的に豚のことを教えたことがなかったですし、先行きに不安がありますが、親子でバトンを渡せるのが純粋に嬉しいですね。」
以前本誌の取材をうけてくださった父・雅康さんの言葉だ。時は流れ16年。雅康さんが託した「親子のバトン」は息子である貴朗さんに着実に受け継がれていた。
札幌の奥座敷とも呼ばれる定山渓に近い南区豊滝。そびえ立つ札幌岳の麓に札幌唯一の養豚場、古川農場がある。昭和50年にはおよそ100軒の養豚場があった札幌だが、今は古川農場1軒のみ。古川農場は、貴朗さんの祖父にあたる先々代が平岸で水田と果樹園の他に豚を飼育したのが始まり。札幌オリンピックの整備等の理由から北広島市へ移転し、その後ゴルフ場の開発もあり、平成3年に現在の地へ移った。
「平岸から毎日通うのは大変で、特に冬は前が見えなかったり、道がなかったり。でも、静かできれいな水と澄んだ空気で、豚をストレスなく育てることができる。そして、休憩中に眺める八剣山の景色に癒されるんです。」と貴朗さんは話す。
良質を保つための
こだわり
古川農場は、豚舎2棟、倉庫、堆肥舎、浄化処理場が各1棟の施設。父・雅康さんの時代から変わらず、大ヨークシャー×ランドレース×デュロックの3種類の純粋種を掛け合わせた三元豚を飼育し、週1回20~40頭、年間約1、600頭を出荷している。
近年は飼料価格の高騰や輸入豚肉の増加など、依然として経営環境は厳しい状況にあると共に、豚熱(CSF、旧称 豚コレラ)等の感染症対策に経営努力が払われている。豚舎をはじめ、建物間の移動の際、必ず長靴を履き替える。休憩場から豚舎に行くまで、実に4回以上履き替える徹底ぶりだ。
飼料へのこだわりも強い。2021年より三元豚に与える飼料は、北海道産の子実コーンをベースに、できるだけ北海道産のものに移行している。出荷前は、非遺伝子組み換えとうもろこしに道産小麦10%を加えた仕上げ飼料、また生後90日齢以降の肥育豚は無投薬飼育のため、抗菌性を有しない飼料を使用する。
「将棋めし」に
古川ポーク
細やかな気遣いの下、ストレスなく育った豚たちは、「古川ポーク」の名前で様々な有名店で取り扱いされる。過去には北海道枝肉共励会・肉豚の部で全道最優秀賞を受賞。現在は生活クラブや大金畜産(名称は札幌豊滝産熟選豚)をはじめ、JAさっぽろ生産者直売所「とれたてっこ南」等で販売されている。
昨年、定山渓で開催された第63期王位戦では藤井聡太棋士が「将棋めし」として「古川ポーク~ミートソースパスタと焚火グリルサラダ~」を食べ話題になった。更に今年4月に開催されたG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合のレセプションで「古川ポーク」を前面に出した食事が提供される等、その美味しさは周知のものとなっている。そんな中でも謙虚な姿勢を忘れない。
「みなさまに褒めていただき嬉しいのですが…まだまだです。より柔らかく、そして赤身の美味しさを追求したいですね。今でも父とたくさん話をして、相談しながら取り組んでいます。もっと柔らかく美味しい豚肉を目指し、家族と協力して日々頑張っています。より多くの方々に食べてもらいたいですね。」
札幌唯一となった養豚場を、そして古川農場を守ると決めたその日から、貴朗さんの意志が揺らぐことはない。