共に農業に携わって20年。話す言葉は少なくとも、良質な野菜作りを目指して互いに切磋琢磨する兄弟の姿を追いかけた
得意分野を活かした作業分担
江別方面へ車を走らせると、石狩川の堤防に沿い広大な平野が広がる。その一角にある、一面緑色を纏った圃場が佐藤農園だ。
佐藤農園では現在、10haの畑でキャベツや春菊、ほうれん草、馬鈴薯などを作付し、市場へ出荷しているほか、レタスは契約販売を行なっている。
3代目の佐藤角栄さんが就農したのは34年前。幼い頃から畑に親しみ、大学卒業後に農業の道へ進んだ。一方、3学年下の弟・栄治さんは、企業勤めを経て32歳で就農。
「兄とは違って手伝いもほとんどしたことがなかったし、自分が農業をする日が来るなんて、思わなかったですね」
兄弟揃って農業に携わるようになり20年が経つ。角栄さんの担当は、現場管理や作付量の決定など、経営方針に関する事。経理などの事務は栄治さんが、会社員時代の経験を活かして担う。経験や得意分野を活かした、作業分担だ。
取材時は、キャベツの収穫が行なわれていた。角栄さんに栄治さん、母の雅子さんとパート従業員の計9名、収穫から箱詰めまでの一連の作業には、何一つ無駄がなく、見事に連携が図られていた。
「若い頃は平気だったことも、年を重ねると体力的に厳しい時があってね。兄弟で農業をするなんて、一つもイメージしてなかったけれど、弟がいてくれて本当に良かった。なるほど、という助言をくれるし、助かっているよ」
安全・安心はもとより良質な生産を目指して
露地栽培の葉物野菜は特に、気象の影響を大きく受ける。天候が読み切れなかった昨年は、多くの品目が商品にならず、かなりの打撃を受けた。異常気象という捉え方ではなく、大雨も干ばつも当たり前、とマインドを切り替えた。
「うちは、多品目の野菜を生産してるんだ。それらを輪作して、後作に相性の良い野菜を組み合わせることで病害虫の発生を抑えて、結果、減農薬につながるんだ。あとは、作物がよく育つことで収量アップを目指しているね」と角栄さんは話す。
キャベツやレタスの畑には、有機肥料を畑全面に撒き、数日後にロータリーをかけて土になじませる。
定植は1度に5〜6千株の苗を植え付け、収穫後には再度土づくりから丁寧に行なう。そしてまた、新たに定植。それを10回余り時期をずらしながら行なうことで、収穫時期を調整し、7月から10月まで長期間にわたり出荷できるように栽培している。
兄弟が描く未来の姿─
取材時も時折短く言葉を交わし、程良い距離を保つ2人だったが、最後に「兄貴のあのエピソードいいんじゃない」と栄治さんが教えてくれた。
「兄は日本で1番キャベツとレタスを食べていると思います。『消費者に安心してもらうためには、まずは自分が食べないと』って毎日大きなどんぶり一杯食べているんですよ。前世は青虫だったんじゃないかと思うほどで(笑)」
「大げさではなく、若い頃からずっと続けているんだけど、日々変化する野菜の状態もわかるし、身体の調子も良いから、一石二鳥だね」と角栄さんは笑う。自ら消費することで、状況把握を怠らず、常に作物と向き合っている。
「今作っているものをいかに確実に、良質なものを出荷していけるか。体力勝負なので、健康に気を付けてあと10年は頑張りたいし、2人でやれるかぎり続けていきたい」と角栄さん。
「兄貴のいうとおり、兄弟の信頼があるので、仲良くお互いに助け合っていいものを作り続けたいですね」と栄治さん。
幼い頃、互いの未来に描かれなかった兄弟の姿。
長い月日を重ね、「農業」を通してさらに深まった結びつきから生み出される空気感と互いへの敬意。
今2人が描く未来には「農業を続ける兄弟」の姿が鮮明に映し出されていた。