小雪がちらちらと舞い、身体の芯まで寒さが染み渡る初冬。長芋の収穫期を迎えた、石狩市生振の中田農園を訪ねた。
地の利を活かした生産
探求心で臨む
石狩市生振は、茨戸川と治水事業で昭和初期に完成した石狩川に周囲をぐるりと囲まれた平野に数多くの畑が広がる。中田農園は、ひと際目を引くオレンジ色の倉庫で父親の代から直売を行なっている。
かつて水田地帯だった生振では、転作作物として砂地の利を活かした作物を熟考し、根菜を作り始めた歴史がある。長芋は特に水はけに優れた砂地との相性が良く、形も良く育つ。日中は高温、夜間は低温、その寒暖差が石狩産長芋の美味しさの秘訣だという。
中田さんは、会社員を経て20年前に親元就農。4年前には13軒が加入する長芋部会の部会長に就任した。農業機械を扱った会社員時代の経験を活かし、農機具の点検・修理は自ら行なう。
「昔から考えるのが好きで。修理は機械のお医者さんみたいだし、壊れた原因や壊れなくなる方法を考えるのも楽しいです」
農作業に関しても、常に「考える」ことを止めない。その一例が、ロング肥料の有効性を検証すること。肥料が流れやすい砂地でも、温度や土壌のpHに左右されないと言われる緩効性肥料は有効なのか。より良くなる方法を模索する探求心は、人一倍だ。
2年を費やす理由は
長芋は一般的に、切った長芋を春に種芋として植え、初冬に収穫する。しかし中田農園では、「長芋の赤ちゃん」と言われる「ムカゴ」を植え、種芋を作るところから始め、1年かけて栽培した種芋で、翌シーズン長芋を作る。
「長芋は病害に弱く、病害はDNAで遺伝して、何世代にも引き継がれます。種苗会社で管理栽培されたムカゴで作る種芋は、病気に強い。手間や費用が掛かってもリスクを軽減でき、増収を期待できるんです」
畑に雪が残る3月、除雪後、土の中から越冬した子芋を掘り出す。ハウス内で20~25日間、子芋を腐らせないよう、徹底した温度管理で芽出し作業を行なう。これが1番気を遣う作業だという。
定植後、11月までじっくり育てられた長芋は、傷がつかないよう慎重に掘り起こし、1本1本砂を落とす。そして選別後に箱詰め作業を行ない、ようやく出荷の日を迎える。
「栽培期間が長いので、大雨や台風の被害を受けることも少なくありません。今年は夏場の日照のおかげで、大きな規格の長芋が多い。なかなかの出来です」
掘り起こされた長芋に触れながら、自信を覗かせた。
直売所での会話から
求められるものを
約13haの畑では、長芋、ゴボウ、大根、小麦を中心に、野菜や花卉など多品種を栽培。倉庫で直売を行なうほか、地物市場「とれのさと」や札幌市場にも出荷している。
「父が35年以上前に直売を始めた当時は、今より小さな規模の無人販売で。あの頃はまだ直売所がなく、先駆けでした」
徐々に規模を拡大し、倉庫の一角で営む現在の姿に。営業は毎年3月下旬から11月まで。母のアヤ子さんと妻のみどりさんが店番を担う。
「直売所は、生の声を聞けるので励みになります。生産過程を説明する中で苦労を知ってもらえたり、会話の中から求められているものが分かったり、ヒントをもらったり」
花卉栽培を始めたのも、きっかけは直売。茨戸霊園が近くにあり、彼岸や盆の時期、花はないかとよく聞かれた。要望に応えたい。対面販売が使命感に繋がっている。
今後の展望を尋ねると、返ってきた答えは─。
「父から代々受け継いできたものを絶やさないように、親から習ったことと、時代に合わせた栽培技術の併用で省力化も目指しつつ、近年の気象条件も考慮しながら…お客様に喜んでもらえるものを安定的に作り続けていきたい」
穏やかな口調ながらも、揺るがない想いが詰まったその言葉に、外の寒さを忘れた。