北海道の代表的な風景のひとつとして親しまれてきたサイロ。
札幌で100年以上存在してきたサイロがある暮らしの中、
牧草を生産する4代目の姿を追いかけました。
趣きある
2基の赤いサイロ
1915年(大正4年)創業の近藤牧場。
札幌市北区新川、新琴似1番通を北に向かっていくと開拓期さながらの風景に出会うことが出来る。
「札幌の原風景」。この言葉がしっくりくる牧場の風景は、「さっぽろ・ふるさと文化百選」や「北区歴史と文化の八十八選」にも選ばれているほどだ。
近藤牧場のシンボルともいえるのがこの赤い屋根の2基のサイロ。
牧歌的な北海道らしい農村景観が住宅街の中に未だ残っている事に驚くが、さらに驚くのがその構造。現在では、稀少となった木製サイロ(1925年建築)と札幌軟石製サイロが並ぶ。札幌には開拓時代からのサイロが点在しているが、異なる作りのサイロが並んで使われているのは大変珍しく、ここにしかない貴重な風景を作り出している。
この風景を守りながら牧草を育てているのが琴似地区組合員の近藤克宜さん。近藤牧場の4代目として主に盤渓にある乗馬クラブに牧草を提供している。
「牧舎とサイロの管理は自分で行なっているんです。5年おき位に防腐剤を塗布したり、細かな修理を施したり。ただ祖父の代に外壁を張り替えて以来大きな修繕はしていないんですよ。台風や地震の時も大きな被害もなくて。昔の建物は本当に丈夫ですね。」と少し誇らしげな表情で話してくれた。
牧草生産に
かける想い
かつては、30頭以上の乳牛を飼育していた近藤牧場。都市化に伴い、30余年前から牧草の生産に切り替えた。育てている牧草はチモシーという品種で、撮影に伺った6月19日が丁度1回目の刈り取り時期となった。
「札幌まつりの前後が刈り取りの時期になるのですが、ここ数年はこの時期に雨が降る事が多くて困りますね。完全に乾いていないと刈り取りが出来ないので……。早く刈り取るよりは時期を遅くした方が良いので、年によっては7月上旬になる時もありますね。」
草丈1メートルほどに成長した牧草を約4日間で刈り取りし、200個の牧草ロールを作りあげ、2週間おきに盤渓の乗馬クラブへトラックで運ぶ。
この刈り取り作業を年2回程度行なった後、堆肥を入れ、耕起し種を撒く。これが年間の作業になるが、この一連の作業を毎年克宜さん一人で行なっているというから驚きだ。
「うちの牧草を食べてくれる馬たちの為に頑張って続けていきたいですね。今年の牧草は、天候にも恵まれ、青々としてかなり良い出来だと思いますよ。」と嬉しそうに穏やかな口調で話す。
サイロと共に
人生を歩んで
ここ新川地区では多い時に8軒程の牧場があったが、現在は近藤牧場のみとなった。
「生まれた時からこのサイロがあるので、サイロは私の生活の一部ですね。私の母もやっぱりこの風景が好きで残してほしいって言っているんです。その気持ちは私も一緒で、建物と土地を守り継いでいく、それが自分の役割だと思っています。」
牧場内には創業当時に植えられた樹齢100年を超えるポプラ並木が広がり、牧舎やサイロと相まって美しい牧場風景を生んでいる。この木々と2基のサイロは、これからも変わりゆく札幌の街並みを変わらずに眺め続け、克宜さんとお母さまの想いに応え続けていくだろう。