滝野の地で歩む農業。地域の支えをチカラに一歩づつ前へ。

豊平地区組合員

吉川 千春さん

新規就農から9年。お客様と地域の生産者の支えをチカラに、着実に夢を叶えるため歩み続ける誇り高き生産者。

溢れ出る滝野への愛着

明治初期は札幌への木材供給地としての役割を担い、開拓当時から冷害など厳しい自然環境により開墾が困難とされてきた滝野地区。
吉川さんは、そんな滝野を選び新規就農して今年で9年。幻のイチゴ「サトホロ」(アイヌ語で札幌の意)、サッポロミドリ、札幌大長ナンバンなど40~50品目を作付けし、都市型農業を展開する。農作業に加え、学校給食への食材提供、区内で開催される朝市への出品、野菜マルシェへの隔週参加、円山での移動販売など、吉川さんの熱量と行動力には、ただただ圧倒される。「袋詰め作業は母に手伝ってもらっています。あとは、私一人での作業になるので怪我もできないし、寝込んでもいられないですよ。でも、就農した時から地域の方々に支えてもらって。農機具をもらったり、時には耕してもらったり…本当に皆さんの支えが自分を成長させてくれます。私はこの滝野が好き、滝野の地で農業をしていきたい。」吉川さんを取材する中で何度も発せられる「滝野」という言葉から、新規就農者としてこの地を選び挑んだ決意と、地域の方々への感謝の想い、そして何より愛着が感じられる。

9年目で到達した一つの通過点

今回取材したのには大きな理由がある。就農当時から目標にしていた直売所をこの春本格的にオープンさせたとの便りがあったからだ。
圃場の近傍に札幌軟石の趣ある建物。軒先にたまねぎが干され、入口にはオリジナルのロゴがあしらわれたウェルカムボードと手書きのメニューボード。
「就農当時から『対面』『直売』の販売スタイルを目指して野菜を作ってきたので…と言いながらも収穫や出荷に忙しくて『無人販売所』になる時もあるんですけどね。」そう嬉しそうに話してくれた。
軒先をくぐると、旬を迎えた夏野菜を中心に多くの野菜が並び、壁に装飾されるレシピや料理の写真には“旬の野菜の素材を感じてほしい”という吉川さんの願いがしっかりと打ち出されている。
最近では、かねてからのファンのみならず、近くのゴルフ場スタッフなど、様々な人たちが訪れてくれ、手ごたえを感じているという。「私の農業のこだわりの一つに、一番美味しくて栄養のある“旬の野菜”を食べてほしいという気持ちがあります。対面販売や直売所にこだわるのは少量だからこそ一番美味しい状態でお客様に提供できるからなんです。」

滝野生まれのメークイン

直売所で一際目を引くのが『滝野メークイン』。見た目は変わらないが、従来のメークインと比べると煮崩れしやすい一方、ホクホクして甘み抜群。滝野特産の品目だが、生産者は吉川さんを含め3戸ほど。元々種芋の産地であった滝野地区で病気が発生し種芋生産が続けられなくなった際、食用に転用する為に努力を重ね生まれたものだ。『滝野』の地名を冠したこのじゃがいもに対する吉川さんの想いは強く、新規就農時から作り続けている。「逆境の中で生まれた滝野メークインの味が失われないよう、作り続けたいですね。」
 帰り際、最後の質問を投げかけた。「農業は楽しいですか?」
するとその日一番の笑顔で即答してくれた。「農業は『辛楽つらたのしい』です。9年たっても失敗ばかりだし、肥料高騰の割に野菜の値段は上がらないし、辛い事も多いけど、滝野地区の皆さんが助けてくれる事で楽しく野菜が作れて、さらに食べた人が美味しいって言ってくれる。こんなにやりがいのある仕事は他にはないと今でも思い続けています。選ぶ、料理する、食べる、全ての時間が楽しくなるような野菜をこの滝野で作り続けていきたいですね。」取材時も絶えず近所の方々が吉川さんの元を訪ねてくる。この環境が美味しい野菜の素になっているのだと得心した。