始まりは「知りたい気持ち」から観光農園で提供する安心と癒やしの空間

地区組合員

小仲 美智子さん

安全・安心な食べ物を通して、訪れる人が癒やされる、憩いの場を提供したい─。そのような想いで果物や野菜を育てる観光農園「アルシェフェルム」を訪ねた。

「知りたい気持ち」と
「行動力」で就農へ

真駒内駅から南へ車で20分。南区豊滝の、国道230号線沿いにある観光農園「アルシェフェルム」では、手入れが行き届いた果樹が整然と並び、色付いた実が収穫を待っていた。

80アールの畑で作られているのは、ブルーベリー20数種、サクランボ10数種、ハスカップ数種のほか、玉葱やビーツ、豆類などの野菜が約30種類。手入れの方法がそれぞれ違うさまざまな品目を、6人で管理する。

31年間営んできた建設会社を子息に託し、就農したのは62歳の時。もともと野菜作りに興味があり、家業を営む傍ら中小企業家同友会「農業経営者部会」に所属、各地の農家を訪れた。

「同じ品種でも、生産者によって全然味が違うんです。作り手の思考が投影されるのかと思いました」

家庭菜園を始めたものの上手く育たず、その難しさを知り、コツや美味しくなる秘訣を「もっと知りたい」と思った。そこで翌年、市民農業講座「さっぽろ農学校」を8ヶ月間受講。実習では70㎡の畑が与えられ、何を作るかは自由。安全・安心なものを口にしたいと考え、無農薬栽培での葉物や根菜に挑戦したが、そこでもまた難しさを味わった。

「そんな時にブルーベリーの圃場研修があり、無農薬でも鮮やかに実っているのを見て挑戦する気持ちが湧きました」

片手間ではなく、腰を据えて取り組もう─。そう決意し、土地を探して農業生産法人を設立した。

リピーターも大絶賛の彩り鮮やかな果物たち

情熱は開拓者のごとく

「サクランボの樹が数十本あっただけで、あとは笹藪。開拓者みたいでしたよ」

小仲さんの農業は、畑を整地するところから始まった。粘土地には火山灰や土を入れ、ブルーベリーの土壌は酸性にするため、硫黄とピートモスを大量に投入。すぐに千本程の苗を植えたが植付け方に問題があった。

「なんで?と悩みますよね。農家の先輩にアドバイスをもらって、翌年に全て植え直したの」

植付け方を変更してからは、少しずつ収量が向上。当初からブルーベリーと野菜には一切農薬を使用せず、堆肥を自作して春にすき込む。気候によって発生する害虫は、人を雇ってでも全て手作業で駆除する徹底ぶりだ。

サクランボだけは減農薬。開花の時期に駆除しきれない虫が入るため、やむを得ず使用しているが、使用は必要最低限に抑える。新規来園者には、無農薬・低農薬栽培であることを伝えるようにしている。食品添加物の多い時代。「安心」を理由にリピーターになるお客様も多い。

主に直売を担当している後継者の瑞紀さん(右)と一緒に
収穫の日を迎えたみずみずしいゴーヤ

のんびり、
くつろげる場を

観光農園として、果物狩りや直売を行なうほか、バーベキューコーナーを提供している。屋根付きのテラスからの風景は、畑越しに八剣山が望める。

「天気や時間を気にせずに、のんびりして欲しい」

アルシェフェルムとは、フランス語で「命を繋ぐ箱舟・農園」を意味する。目前に広がる豊かな自然の中でゆったり流れる時間は、柔らかい発音のこの言葉がとても似合う。

野菜は全て小仲さんが作ったものを提供するが、その他の食材は持込も可能。予約時の希望に応じて、肉や炭入りの七輪など必要なものを用意する。全ては喜んでもらいたいから。そのための苦労をいとわない。

「お客様と触れ合うのが楽しいんです。皆さんに教えられ、助けられ、ここまで来ました。お客様の何気ない一言から気付くことがあったり、これからも感謝と共に努力していきたい」

今後の展望を尋ねたところ、今はスタッフの一人である娘の瑞紀さんが後を継いでくれる予定であり、設備や環境などを整備していきたいという答えが返ってきた。目を見張る行動力 でこの農園を作り上げてきた小仲さん。母娘の力で、さらに笑顔溢れる空間となった農園の姿が目に浮かんだ。

少量多品目の野菜が並ぶハウス。日々その生長を感じながら見回るのが日課
直売用のブルーベリーを収穫する小仲さん
テラスから望む、ブルーベリー畑越しの八剣山