家族で取り組む楽しい農業が永遠に続きますように

北札幌地区組合員

荒木 徹也さん

本誌が荒木農園を取材してから8年。生産物・気候等さまざまな変化の中、当時と変わらず家族で農業を楽しむ荒木さんを再び追いかけた。

少量多品目栽培に
たどりついたのは

「農業が楽しくて仕方がない。挑戦し続けるのが楽しむコツかな。嫌な作業は1つもないからね。」

日差しが燦燦と照り付ける8月。札幌市東区にある荒木農園を訪ねると、開口一番、屈託の無い笑顔でそう話してくれた。

荒木さんは、この地区で代々農業を営む農家の5代目にあたる。3年間の会社勤めを経て、25歳の時に就農。10年程、外で修行してから跡を継ぐ予定だったが、父が体調を崩したことで想定より早い就農となった。冒頭の言葉からもわかるように、農業を心から楽しむ荒木さんだが、ここまでの道程は決して順風満帆ではなかったという。

「就農5年目に、当時メインで栽培していた春菊が、連作障害でほとんど収穫できなくて…心が折れそうになったね。」

そんな苦境の中でも、ひとりで悩まず家族で話し合ったことが転機となった。契約栽培の加工用トマトへ切り変えてはどうか─。それに踏み切ったことで活路が生まれ、収入も安定。この経験が、リスク管理を念頭に置いた少量多品目栽培にたどりついたきっかけだった。

今から8 年前、本誌に掲載した荒木さん夫妻のお写真

3本柱でリスク分散!
挑戦枠で選んだ作物が…

8アールの畑で作られているのは、ミニトマト・苗物・空心菜の「3本の柱」に加えてじゃがいもや玉葱、生姜など。この3本の柱を主軸とする作付けが、荒木さんがリスク分散の方法として考えた策だ。2品目は安定生産できるものを選び、年間収入を賄う。残りの1つは挑戦枠として、他の生産者と差別化を図れる品目を選ぶ。この策の良い所は、いずれかの作物が不作でも収入が安定することと、挑戦し続けられることだ。

現在の挑戦枠は「空心菜」。東南アジアを代表する作物で、暑さと湿度が必要。ハウス内の温度は約55度、作業は短時間に集中して行なう必要がある。例えば収穫は1回の作業時間を10分程度とし、2・5㎏の収穫を数回に分けて行なう。高温多湿のハウス内は息苦しく、数分で大粒の汗が噴き出す。30℃の外気温が涼しいとすら感じるほどだ。

「今日は涼しい方だよ。今年もこの1か月で10㎏くらい体重が落ちたんじゃないかな。」

過酷な状況を笑顔で話しながら、淡々と収穫作業は続いた。空心菜は札幌近郊での栽培が少なく、ノウハウも確立されていない。5年前から栽培を始め、試行錯誤を繰り返している最中だというが、実はこの空心菜が、挑戦枠から少しずつ堅実路線へとシフトしているというから驚きだ。

時計台が描かれている空心菜の野菜袋
荒木農園では、ミニトマトは奥様の晶子さんが担当。品種などは晶子さんと徹也さんの妹さんで決めている

家族で過ごせる
農業の時間を楽しむ

そ菜部会の支部長や青年部の役員を歴任しているのは、農業を営む仲間で協力し、食育等の「出来ること」をしていきたいという想いが強いから。何事も楽しみながら、という姿勢で取り組む姿に人望も厚い。

今後の展望を尋ねると、「人が作っていないもの、とにかく新しいものを探し続けて挑戦したい」という答えが返ってきた。現在も、北海道では珍しい生姜を栽培している。自家栽培の生姜から、生姜シロップやジンジャーエールを作ってみよう!というのは、奥様の晶子さんのアイデア。何を作付けするかはもちろん、使用する農薬の1つに至るまで相談し、2人で決める。荒木さんの良き理解者であり同志でもある、最も頼れる存在だ。

農業が楽しい一番の理由は、家族と常に共に過ごせ、何事も相談しながら取り組めるから。先代の時代から、家族が仲良く賑やかに農業を営む姿を見て育ったためか、中学生の息子さんが跡を継ぎたいと話すことがあると、目を細めながら話してくれた。

農業を心から楽しむ二人が、見つめる未来はただ一点。これから先も家族で楽しい農業を続けていきたい─。ご夫婦の想いが引き継がれ、自然体で農業を楽しむご家族の様子が目に浮かんだ。

真っ赤に実った完熟のトマト
空心菜は、茎の中が空洞になっている事が名前の由来
暑さに強く生育が旺盛な空心菜
会話をしながら作業を楽しむ荒木夫妻