地物市場『とれのさと』には、冬期も出荷を続ける生産者がいる。
休むことなく出荷を続ける、その思いを訪ねて─。

市場出荷と並行して
多品目をとれのさとへ
伊藤農園がある石狩市高岡は、農繁期には施設園芸用のハウスや水田が一面に広がるが、現在は雪景色に変わっている。その一角に建つ倉庫では、厳しい寒さの中、直売に向けた出荷作業が行なわれていた。
「雪が降る前に収穫したキャベツを、低温管理で保存していて。ほかにも馬鈴薯や玉葱、人参なども同じように保存して、冬期もとれのさとに出荷を続けています」
農園を主となり営むのは、5代目の強さん・弥生さんご夫婦だが、先代にあたる誠さん・佐智子さんご夫婦も共に営農を続ける。
作付面積は約28ha。広大な敷地で、米と馬鈴薯、人参を市場に出荷。それと並行して、地物市場『とれのさと』にも通年出荷を行なうため、多品目の野菜を生産している。
「年間30品目くらいは出しているかな。出荷を切らさないように、何をいつ、どのくらい出すのかを決めたり、搬入するのは私の担当だけど、生育管理やこういった出荷作業は家族みんなでね。とにかく量がすごいから…こうして通年で出荷できるのも、家族の協力があってこそ」
出荷者協議会の登録は、佐智子さんの個人名。パッケージに貼られたシールの名前を見て、指名買いをするお客様も多い。

諦めず続けてきたから
開店前のとれのさとには、会員が次々と搬入に訪れる。「さっちゃん、きれいなキャベツだね!」。顔を合わせた会員同士、会話が弾む。
「うちが直売所への出荷を始めたのは、平成5年、イチゴの栽培を始めた頃。石狩産のイチゴをもっと知ってもらいたかったの」
当時はまだ、直売所が一般的ではなかった時代。佐智子さんは、選果場の駐車場で有志数名が小さなテントを張って販売していた時からのメンバーだ。
地場産の野菜を食べたいという消費者、そしてそれを届けたいという生産者。双方の想いがあり始まった直売も、順風満帆ではなかったという。
「直売をしていること自体があまり知られていなく、思うように売れなくて。売り子から会計まで全部自分たちでやっていたので、今とは全然違いますね」
週1回ペースで開かれていたこの直売所は、徐々にその新鮮さや美味しさが口コミで広がった。JAもサポートを行ないながら規模を拡大し、現在のとれのさとの開店に繋がった。
「よくここまで大きくなったな、みんなで頑張ってきたなって嬉しかったよね」
平成29年から冬期営業も開始したとれのさとは、多くの会員に支えられて成り立っている。

近所の方からは、「さっちゃんは仕事ばかりしているね」と言われるそう
喜んでくれる
お客さんのために
「作業の中心は息子夫婦。3人いる孫たちが、いつも手伝ってくれるのが嬉しくて」
猛暑が続いた昨夏は、例年以上に小まめな水撒きが必要だった。三世代、家族総出で手入れをし、出荷し続けた。
「去年は今時期、こんなにキャベツの在庫がなかったの。量を増やしたのもあるけれど、品種を変えて植える時期を遅らせたこともあって、今出せるものを確保できている状況」
葉がギュッと詰まったキャベツは、持つと手にずっしりと重さを感じる。過去一番の出来だと、自信を覗かせた。
野菜が収穫できる時期は、他の生産者も同じ。時期をずらして出荷する方法を模索して、低温管理に行きついた。売れるための工夫でもあるが、喜んでくれるお客さんがいること、冬場に少しでも収入があることも活力になっている。
「ここに来たらいつでも、多品目の地場産野菜が買えるように。会員同士が品質を競いながら、楽しんで出荷を続けたい。私、とれのさとへの出荷に命を注いでいるから(笑)」
品質にこだわり出荷される、多種の野菜たち。伊藤家を代表して付された佐智子さんの名前とともに、これからも毎日とれのさとの棚を賑わせていく。



